2026年9月27日、愛知・名古屋アジア大会の女子やり投決勝で、北口榛花選手は銀メダルに輝きました。
北口榛花選手といえば、2023年の世界選手権、2024年のパリオリンピックで金メダルを獲得した、日本女子やり投の絶対的エース。
しかし、2025年の東京世界陸上では、まさかの予選敗退。
「北口榛花、どうしたの?」
と驚いた方も多かったのではないでしょうか。
ところが2026年、北口選手は再び世界のトップへ。
9月には68m92の日本新記録をマーク。
さらにアジア大会でも62m70で銀メダルを獲得し、世界トップレベルで戦えるところまで復活しています。
では、北口榛花選手はなぜこれほど強いのでしょうか。
北口選手はその体格が話題になることもありますが、やり投は単純に「身体が大きいから飛ぶ」という競技ではありません。
この記事では、
- 北口榛花選手のこれまで
- 2025年に苦戦した理由
- 2026年に復活した理由
- やり投で体格は有利なのか
- 北口選手の投げ方のすごさ
について紹介。
さらに、現役理学療法士の視点から、地面反力や全身の運動連鎖にも注目して、北口選手の強さを考えてみたいと思います。
北口榛花はなぜ強い?まずはこれまでの経歴を簡単に
まず、北口榛花選手がこれまで世界大会で残してきた主な成績を見てみましょう。
| 年 | 大会 | 成績 |
| 2019年 | 世界選手権ドーハ | 13位 |
| 2021年 | 東京オリンピック | 12位 |
| 2022年 | 世界選手権オレゴン | 銅メダル |
| 2023年 | 世界選手権ブダペスト | 金メダル |
| 2024年 | パリオリンピック | 金メダル |
| 2025年 | 世界選手権東京 | 予選敗退 |
| 2026年 | WAアルティメット選手権 | 優勝・68m92の日本新記録 |
2021年の東京オリンピックでは12位。
そこから2022年の世界選手権で銅メダル、2023年にはついに世界選手権を制しました。
さらに2024年のパリオリンピックでも金メダル。
世界選手権とオリンピックの両方を制し、文字通り世界トップクラスのやり投選手となりました。
しかし、その翌年に大きな壁が訪れます。
北口榛花はなぜ2025年世界陸上で予選敗退した?
2025年、東京で開催された世界陸上。
世界女王として出場した北口榛花選手でしたが、結果は予選敗退でした。
大きく影響したと考えられるのが、右肘の故障です。
右肘の炎症で苦しんだ2025年
北口選手は2025年6月末に右肘に炎症を起こしていました。
当然ながら、やり投選手にとって投げる側の肘は非常に重要です。
東京世界陸上までに十分な状態に戻すことができず、世界選手権では予選敗退となりました。
2026年6月の日本選手権では、北口選手自身が前年の故障について、痛み自体はなくなっているものの、思うように投げられない状態が続いていたことを明かしています。
つまり2026年は、単にケガから復帰するだけではなく、**「どうすればもう一度、自分らしい投てきができるのか」**を探すシーズンでもあったようです。
2026年からヤン・ゼレズニー氏をコーチに
そこで北口選手が新たに指導を受けたのが、チェコのヤン・ゼレズニー氏。
ゼレズニー氏は男子やり投で五輪3連覇を達成し、現在も98m48の世界記録を持つ、やり投界のレジェンドです。
北口選手は2026年からゼレズニー氏の指導を受け、投てきフォームそのものを大きく変更しました。
たとえば、
- 助走の方法
- 助走路を走る位置
- やりの引き方
- クロスステップ
- やりを構える角度
などを見直しています。
特に見た目にも分かりやすいのが、やりの引き方。
以前は助走中に一度やりを下げてから引いていましたが、2026年からは一度下げず、よりシンプルに引くフォームへ変更しています。
北口榛花が復活!68m92の日本新記録
新しいフォームに変えたからといって、すぐに結果が出たわけではありません。
2026年5月のシーズン初戦、セイコーゴールデングランプリでは60m36で5位。
北口選手自身も新しいフォームにまだ慣れていない状態でした。
しかし、少しずつ記録を伸ばしていきます。
6月の日本選手権では62m86で優勝し、アジア大会代表に内定。
8月には64m90、9月には65m44まで記録を伸ばしました。
そして9月12日。
ブダペストで開催されたWAアルティメット選手権で、
68m92。
自身が持っていた日本記録を更新し、優勝しました。
2025年の世界陸上予選敗退から約1年。
故障から復帰するだけでなく、投げ方まで変えながら日本記録を更新したことになります。
北口榛花はなぜ強い?理学療法士が身体の使い方に注目
ここからは、理学療法士として北口榛花選手の投てきを見てみたいと思います。
もちろん、実際に北口選手の身体機能を評価したわけではありません。
そのため個人的な診断や分析ではなく、やり投という競技動作を身体運動の一般的な仕組みから考えてみます。
やり投は「腕の力」だけで投げる競技ではない
やり投を見ると、どうしても最後にやりを投げる「腕」に目が行きます。
しかし実際には、腕だけで70m近くまでやりを飛ばしているわけではありません。
大まかに考えると、
助走
↓
地面を踏む
↓
下肢
↓
骨盤・体幹
↓
肩甲帯
↓
肩・肘
↓
手
↓
やり
というように、全身を使って生み出した力を最後にやりへ伝えています。
理学療法の世界でもよく使う言葉ですが、これは「運動連鎖」として考えると分かりやすいと思います。
地面反力をやりまで伝える
そして、私が北口選手のような投てき競技を見ていて面白いと感じるのが、地面との関係です。
人間が地面を押すと、地面から身体へ反対方向の力が返ってきます。
これが地面反力です。
歩く、走る、ジャンプするといった日常的な動作でも、私たちは地面反力を利用しています。
やり投でも同じです。
助走によってスピードを作り、地面から得た力を下肢から体幹、上肢へとうまくつなげ、最終的にやりへ伝えていきます。
つまり重要なのは、単純な「腕力」ではなく、
全身で作ったエネルギーを、どれだけ効率よくやりまで伝えられるか。
ここに投てき競技の面白さがあります。
実は最後に身体を「止める」ことも重要
もうひとつ注目したいのが、投げる直前のブロック脚です。
助走してきた選手が、そのまま前へ走り抜けながら投げているわけではありません。
投てき直前には前方の脚で身体をしっかり受け止めます。
この「ブロック」があることで、助走で得たエネルギーを身体ごと前へ逃がすのではなく、上半身、そしてやりへと伝えやすくなります。
世界トップレベルのやり投選手を分析した研究でも、支持脚によるブロッキング動作が、身体からやりへの運動エネルギー伝達に重要だと報告されています。
理学療法士として見ると、
速く動く能力だけでなく、「止める能力」もパフォーマンスを左右する。
ここがとても興味深いところです。
北口榛花の体格も強さの理由?体重が重いほど有利なの?
北口榛花選手については、その体格が話題になることがあります。
では、やり投は体重が重いほど有利なのでしょうか。
これは、「重ければ重いほど飛ぶ」という単純な話ではありません。
ある程度の身体質量や筋力は、大きな力を生み出すうえでプラスに働く可能性があります。
一方で、やり投では助走のスピードも必要です。
身体が大きくても、
- 助走で十分な速度を作れない
- 下肢と上半身がうまく連動しない
- ブロック脚で受け止められない
- 最後にやりへ力を伝えられない
のであれば、その身体を十分に生かすことはできません。
逆に言えば北口選手のすごさは、大きな身体を持っていることだけではなく、その身体を動かし、スピードを作り、全身の力をやりへつなげられることにあるのではないでしょうか。
体重という「数字」だけで強さを説明するのは、かなりもったいない選手だと思います。
北口榛花の強さは室伏広治にも通じる?
北口榛花選手の投てきを見ていると、個人的にはハンマー投の室伏広治さんにも通じるものを感じます。
もちろん、やり投とハンマー投では競技特性も投てき動作も大きく異なります。
ただし共通しているのは、
「腕だけで投げているわけではない」
ということ。
投てき競技では、
- 下肢で地面から力を得る
- 骨盤・体幹を連動させる
- 上半身へ力を伝える
- 最後に投てき物へエネルギーを伝える
という全身のつながりが重要になります。
一般的には「筋肉がすごい」「身体が大きい」という部分が目につきやすいのですが、身体が大きいだけで世界のトップにはなれません。
その身体をいかに効率よく使えるか。
北口選手を見ていると、投てき競技の奥深さを改めて感じます。
北口榛花の体格をめぐって和田アキ子の発言が炎上したことも
北口榛花選手の体格については、2024年のパリオリンピック後にも大きな話題になったことがありました。
『アッコにおまかせ!』で北口選手がうつ伏せになってカステラを食べている映像が紹介された際、和田アキ子さんが北口選手を動物にたとえる発言をし、批判が集まりました。
和田さんはその後、北口選手や関係者に対して謝罪。
翌週の番組でも、自身の発言についてリスペクトが足りなかったという趣旨の説明をしています。
確かに北口選手は、女子アスリートの中でも存在感のある体格をしています。
しかし理学療法士として競技を見ると、注目したくなるのは「太い・細い」といった見た目ではありません。
その身体から、どうやって世界トップレベルの投てきを生み出しているのか。
そちらの方が、はるかに興味深いと感じます。
アジア大会2026で北口榛花は銀メダル!
北口榛花選手は、2026年9月27日に行われた愛知・名古屋アジア大会の女子やり投決勝に出場し、62m70で銀メダル獲得しました。
日本からは北口選手のほか、武本紗栄選手も出場し62m15で銅メダルを獲得しました。
北口選手にとっては、意外にも今回が初めてのアジア大会。
しかも大会直前に68m92の日本新記録を出したばかりです。
2025年の故障と世界陸上予選敗退を乗り越え、新しいフォームに挑戦しながら再び世界トップレベルへ戻ってきた北口選手。
金メダルを獲得したのは、70m46を投げた中国の嚴子怡(ゲン・シイ)選手でしたが、北口選手も見事な投てきでした。
ダブル表彰台が嬉しかったですね。
まとめ|北口榛花の強さは「体格」だけでは説明できない
今回は、北口榛花選手はなぜ強いのか、これまでの経緯や2026年の復活、そして身体の使い方について理学療法士の視点から考えてみました。
北口選手は2025年、右肘の故障に苦しみ、東京世界陸上では予選敗退。
しかし2026年からヤン・ゼレズニー氏をコーチに迎え、投てきフォームを大きく変更しました。
そして9月には68m92の日本新記録を樹立。
北口選手の強さを考えるとき、体格だけに注目するのではなく、
体格・筋力
+助走のスピード
+地面反力
+ブロック脚
+全身の運動連鎖
+投てき技術
といった要素が組み合わさって、あの大きな投てきにつながっていると考えると、とても興味深いです。
2026年シーズンは、故障から復帰しただけではなく、投げ方そのものを変えながら自己記録まで更新した北口榛花選手。
アジア大会では62m70で銀メダルを獲得した北口選手。
2026年は、故障から復帰しただけではなく、投げ方そのものを変えながら日本記録まで更新したシーズンとなりました。
次はどこまで記録を伸ばしていくのでしょうか。
「70m」という大台に届く日も楽しみにしたいですね。
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