バスケットボールの試合を見ていると、ユニフォームのハーフパンツの下に、ピタッとしたスパッツを履いている選手をよく見かけます。
NBAやBリーグ、日本代表の試合でもおなじみのスタイルですが、
「バスケ選手はなぜスパッツを履いているの?」
「暑くないの?」
「履くと動きやすくなる?」
「ケガの予防にもなるの?」
と気になった方もいるのではないでしょうか。
実は筆者自身もバスケットボールの試合を見ながら、選手が履いているスパッツが気になった一人です。
調べてみると、バスケ選手が履いているものの多くは、単なる「スパッツ」というより、身体に適度な圧を加えるコンプレッションタイツ(コンプレッションウェア)と呼ばれるもの。
この記事では、バスケ選手がなぜスパッツを履くのか、その理由や期待される効果について、理学療法士の視点から分かりやすく解説します。
バスケ選手はなぜスパッツを履く?
バスケ選手がスパッツを履く理由は、一つではありません。
主に考えられるのは、
- 筋肉の揺れを抑える
- 身体を冷やしにくくする
- 汗を吸収し、快適にプレーする
- 床との摩擦から皮膚を守る
- 適度な圧迫によるフィット感や安心感
- 運動後のリカバリーを目的とする
などです。
特にバスケットボールは、ただ走り続けるスポーツではありません。
ダッシュ、急停止、切り返し、ジャンプ、着地などを短時間に何度も繰り返します。
太ももやふくらはぎをはじめとした下半身には、大きな負担がかかります。
そのため、身体にフィットするコンプレッションウェアを着用する選手が多いと考えられます。
では、それぞれ詳しく見てみましょう。
理由①筋肉の揺れを抑える
コンプレッションタイツの特徴の一つが、身体に密着して適度な圧を加えることです。
走ったりジャンプしたりすると、着地の衝撃などによって筋肉や皮下組織には細かな揺れが生じます。
コンプレッションウェアには、この筋肉の振動を抑える作用があるとする研究報告があります。
バスケットボールでは、
- ダッシュ
- ジャンプ
- 着地
- ストップ
- 素早い方向転換
などを何度も繰り返します。
理学療法士として身体の動きを考えても、下半身に繰り返し衝撃が加わる競技です。
身体にフィットしたスパッツを履くことで、こうした動作をしたときの筋肉の揺れを少なくすることは、一つのメリットと考えられます。
ただし、「スパッツを履けばジャンプ力が上がる」「履くだけでパフォーマンスが大きく向上する」とまでは言えません。
高強度運動におけるコンプレッションウェアの研究でも、運動能力への効果については一貫した結果が出ているわけではありません。
あくまで選手が動きやすい環境をつくるアイテムの一つ、と考えるのがよさそうです。
理由②筋肉を冷やしにくくする
もう一つ考えられるのが、下半身の保温です。
バスケットボールは屋内競技ですが、試合中ずっと動き続けているわけではありません。
ベンチに座っている時間やタイムアウト、ハーフタイムなどもあります。
身体が温まった状態から動かない時間が続けば、筋肉の温度も変化します。
コンプレッションウェアについてまとめた研究では、着用によって局所的な皮膚温が高くなる可能性も報告されています。
もちろん、スパッツを履くだけでウォーミングアップの代わりになるわけではありません。
しかし、身体を覆う面積が増えるため、冷えにくい環境をつくるという点ではメリットがあります。
理由③汗や床との摩擦対策
バスケならではの理由として考えたいのが、皮膚を守る役割です。
バスケットボールでは、ルーズボールを追いかけて床に滑り込んだり、転倒したりすることがあります。
体育館の床に素肌の太ももや膝周辺を擦れば、擦り傷や摩擦による痛みにつながることもあります。
ロングタイプのスパッツで脚を覆っていれば、直接皮膚が床に触れるのを減らすことができます。
また、スポーツ用のコンプレッションウェアには、汗を吸収・拡散しやすい素材が使われている商品も多くあります。
汗でウェアがまとわりつく不快感を減らしやすいことも、激しく動くバスケではメリットでしょう。
理由④適度な圧迫によるフィット感
これは研究結果だけではなく、実際の競技場面で大切だと感じる部分です。
コンプレッションタイツは身体に密着するため、
「脚が包まれている」
ような感覚があります。
スポーツ選手の中には、この圧迫感を好む人もいます。
実際、下肢のコンプレッションウェアを使用しているアスリートを対象とした調査では、再受傷予防や現在の症状軽減、運動後の回復、パフォーマンス向上など、さまざまな目的で使用されていました。
ただし、「締めれば締めるほど良い」というわけではありません。
圧迫が強すぎれば動きにくさや不快感につながることもあるため、身体に合ったサイズを選ぶことが重要です。
バスケ選手が腕につけているスパッツのようなものは何?
バスケットボールを見ていると、脚だけでなく、片腕だけピタッとしたものを着けている選手もいます。
これは一般的に「アームスリーブ」や「コンプレッションスリーブ」と呼ばれるものです。
「なぜ片腕だけなの?」
「なぜ利き腕とは反対につける選手がいるの?」
と気になる方もいるようで、実際にYahoo!知恵袋にも2013年の時点ですでに同じような質問が投稿されていました。
アームスリーブも、基本的な考え方は脚に履くコンプレッションタイツと共通しています。
身体に適度な圧を加えることで筋肉の余計な振動を抑えることや、保温、汗や床との摩擦から皮膚を守ることなどが考えられます。
一方で、
「利き腕につけるのが正解」
「反対の腕につけるのは弱いから」
と単純に決められるものではありません。
選手によって、過去のケガ、身体の感覚、保温、皮膚の保護、ファッションなど、着用する目的は異なると考えられます。
理学療法士として考えても、コンプレッションウェアは「この場所につければ必ずケガを防げる」というものではありません。
むしろ、選手自身がプレーするときに「フィットする」「動きやすい」「安心感がある」と感じることも、着用を続ける理由の一つではないでしょうか。
そのため、NBAやBリーグを見るときに「なぜこの選手は右腕?」「なぜ片腕だけ?」と比べてみるのも面白いですね。
短いスパッツを履いているバスケ選手もいるのはなぜ?
バスケ選手のスパッツを見ていると、足首近くまであるロングタイプだけでなく、ユニフォームのパンツから少し見える程度の短いタイプを履いている選手もいます。
短いタイプも、基本的には身体にフィットするコンプレッションウェアの一つです。
バスケットボールでは、ダッシュやジャンプ、着地、急停止などで、太ももの大腿四頭筋やハムストリングスを繰り返し使います。
そのため、太もも周辺を中心にフィットさせたい場合には、必ずしも足首まで覆う必要はありません。
また、ショートタイプなら膝から下を覆わないため、ロングタイプと比べて暑さや締め付けを感じにくいというメリットもあります。
ただし、
「ロングタイプにはこの効果、ショートタイプにはこの効果」
とはっきり分けられるわけではありません。
どこまで覆いたいか、どの程度の圧迫感が好みか、動いたときに違和感がないかなどによって、選手が自分に合った長さを選んでいると考えるのがよいでしょう。
理学療法士としても、コンプレッションウェアは長ければ長いほど良いとは考えません。
大切なのは、その選手が競技中に違和感なく動けること。
ロング、ショート、片脚だけ、アームスリーブなど、選手によって着用方法が違うところにも注目してみると面白いですね。
バスケのスパッツには疲労回復効果もある?
コンプレッションウェアでよく聞くのが、
「疲労回復を助ける」
という効果です。
この点については、研究によって結果に違いがあります。
バスケットボール選手を対象とした研究では、運動後に下半身のコンプレッションウェアを着用すると、主観的な回復感には改善がみられた一方、その後の運動パフォーマンスには明確な改善が認められなかったという報告があります。
一方、より幅広い競技を対象にした研究では、運動後の筋肉痛や筋機能の回復などに一定のメリットが示されたものもあります。
バスケットボールのリカバリー方法をまとめたシステマティックレビューでも、コンプレッションウェアはさまざまな回復方法の一つとして取り上げられています。
つまり、
「履けば疲労がなくなる」
というものではありませんが、選手がコンディションを整えるために利用する選択肢の一つ、と考えるのが適切でしょう。
スパッツを履けばバスケのケガを予防できる?
ここは、理学療法士として特に注意しておきたいところです。
コンプレッションウェアを着用する理由として「ケガ予防」が挙げられることがあります。
しかし、
「スパッツを履けばバスケのケガを防げる」
と考えるのはおすすめできません。
2024年に発表されたシステマティックレビューでは、下腿のコンプレッションウェアについて、スポーツによる下肢外傷の発生を減らすという明確なエビデンスは確認できませんでした。
バスケットボールは、足関節捻挫や膝のケガなどが起こりやすい競技です。
そして実際のケガ予防では、
- 足首や股関節周囲の筋力
- バランス能力
- ジャンプ・着地動作
- 切り返し動作
- 身体の柔軟性
- 疲労管理
- ウォーミングアップ
など、さまざまな要素を考える必要があります。
バスケットボール選手のケガ予防についてまとめた研究でも、筋力・安定性・体幹・モビリティ・敏捷性などを組み合わせた神経筋トレーニングの重要性が示されています。
スパッツはあくまでコンディショニングをサポートする道具の一つ。
ケガ予防の主役は、やはり身体そのものを整えることだと考えます。
理学療法士が考えるバスケ用スパッツの選び方
では、実際にバスケでスパッツを履くなら、どんなものを選べばよいのでしょうか。
理学療法士としてまず大切だと思うのは、
「強く締め付けるもの」ではなく「動きを邪魔しないもの」を選ぶこと。
バスケットボールでは股関節や膝を大きく曲げた姿勢から、ジャンプやダッシュを繰り返します。
そのため、立っている状態ではちょうどよくても、しゃがんだときに股関節や膝周りが強く突っ張るものは使いにくいでしょう。
選ぶときには、
- 自分の身体に合ったサイズ
- 股関節や膝を曲げやすい伸縮性
- 汗をかいても蒸れにくい素材
- ウエスト部分がずれにくいもの
- 競技中に違和感が出ない程度の圧迫感
などを確認するのがおすすめです。
そして意外と大切なのが、本人が履いていて心地よいこと。
バスケットボールでは一瞬の判断で身体を動かします。
ウェアがずれる、膝裏が突っ張る、締め付けが気になる……という状態では、プレーに集中しにくくなります。
高価なものや圧迫力の強いものが必ずしも正解ではありません。
実際に動いてみて、
「これなら気にならずにプレーできる」
と思えるものを選ぶことも大切です。
バスケ選手のスパッツはファッションだけではなかった
バスケットボール選手がユニフォームの下に履いているスパッツ。
見た目の格好よさから履いているようにも見えますが、コンプレッションウェアには、筋肉の揺れを抑えたり、身体を冷やしにくくしたり、皮膚を摩擦から守ったりする役割が期待できます。
一方で、研究結果を見ると、スパッツを履くだけで運動能力が大きく向上したり、ケガを防げたりするとは言い切れません。
理学療法士としては、
「身体を守ってくれる魔法のウェア」ではなく、選手が快適に動き、コンディションを整えるためのサポートアイテム
として考えるのが一番しっくりきます。
何気なく見ていたバスケ選手のユニフォームですが、「なぜスパッツを履いているんだろう?」という視点で見てみると、選手が最高のパフォーマンスを発揮するための工夫が隠れていることが分かります。
今度バスケットボールを見るときには、選手によってスパッツの長さや履き方が違うところにも注目してみると、また違った楽しみ方ができるかもしれません。
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